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2023.6.7

信託型ストックオプションに関する税制改正と今後の見通しについて解説

信託型ストックオプションに関する税制改正と今後の見通しについて解説
目次
01. 
信託型ストックオプションの利益は給与?それとも株式譲渡益?
矢印
02. 
米国の制度との比較 IRC409Aとは?
矢印
03. 
日本での未上場株式の評価は今後どうなる?
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04. 
まとめ
矢印

ボンジョルノ!皆さん、こんにちは!

最近、信託型ストックオプションに関する税制改正が新聞紙面を賑わしています。ストックオプションとは何でしょうか?ストックオプションとは「株式購入権」を意味し、あらかじめ決められた価格で株式を購入できる権利をいいます。日本でも外資系企業やベンチャー企業などでよく活用されています。例えばスタートアップなど初期フェーズにいる企業は、まだ十分な資金や利益がなく、優秀な人材を確保するのに魅力的な給与を提示するのが難しいケースがあります。こういった場合に給与に加えてストックオプションを報酬として従業員に付与することで、将来上場を果たした後に、従業員がオプション権利を行使し株式を取得し、市場で売却することで大きな利益を得ることができるため、優秀な人材がスタートアップ企業で働く大きな動機付けになっています。

信託型ストックオプションの利益は給与?それとも株式譲渡益?

ちなみにこのスキーム自体は昔からありますが何故このタイミングで騒がれているのでしょうか?

それは国税庁が2023年5月29日に信託型ストックオプションの税務処理について、給与扱いとなるとの見解を示したためです。

国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)(情報)」

なおストックオプションにも様々な種類がありますがこの「信託型ストックオプション」とすることで、入社時期の違いによる同じ価値の権利を渡すことが可能となり、企業側は信託型ストックオプションを使うことで上場前後フェーズでも優秀な人材確保に利用できるメリットがあります。これまで企業側は、従業員や役員が権利行使で得た株式の売却に対して、株式の譲渡益として20%の税金がかかるとの認識でした。ですが給与所得としてみなすとなると累進課税となり個人の総所得によって最大55%の税金が課せられることになります。また給与となるのであれば企業側に源泉徴収義務も発生し、かつ従来から使われていたスキームのため過去に遡って処理する必要が生じるのかと関係者は大混乱となったのです。

そもそもストックオプションに関する税制についてルールが明確に決まっていなかったことが原因なのですが、国としてもスタートアップ企業を育成したい思惑もあり、国税庁側も税制上優遇措置が受けやすくなるようにストックオプションに関する税制を見直す予定のようです。これは、給与所得とならずこれまで通り権利行使時まで課税が繰り延べされ、株式の譲渡所得として20%で済むように「税制適格ストックオプション」というものが明確化されます。つまりこのスキームを使えば給与所得扱いではなく、従来の企業側の認識通りの株式の譲渡所得扱いでよいとなる訳です。なお、この税制適格となるための条件のひとつとして、権利行使価額はストックオプション付与契約時の株価(時価)より高くなければいけないというものです。ここがポイントなのですが、上場株式であれば市場での価格がすなわち株価なので問題ないのですが、スタートアップ企業やベンチャー企業のような未上場企業の株価はどう評価すればよいのでしょうか?

なお株価の算出が肝になる背景としては、ストックオプションによる利益は、権利行使価額と売却時の価格差となることによります。つまり権利行使価額が低ければ低いほど、そして売却時の株価の市場価格が高ければ高いほど権利保有者は利益を多く得ることができます。ストックオプションを手にする従業員・役員にとって、株式の時価評価は低ければ低いほど権利行使価額が下げられるため有利なのです。そのため未上場企業の株価の算出方法がキーになってくるわけです。

米国の制度との比較 IRC409Aとは?

スタートアップやベンチャーといえばアメリカというイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?日本と違ってストックオプション周りの法制度が整っているアメリカは未上場企業の株価評価はどうしているのでしょうか?

409A Valuationや409A 評価とも呼ばれますが、米国では未上場企業の株価算定方法がIRC Section 409Aでしっかり決まっています。なおIRCはInternal Revenue Codeの略で米国内歳入法という連邦税制度です。米国内には409A評価会社が多数存在しており、未上場企業は第三者であるこうした評価会社に依頼し、会社価値を算出してもらいます。なお自身で算出したり専用ソフトを使って算出することも可能ですが、万が一当局につつかれた場合のリスクが大きいため、評価会社に依頼するのが一般的なようです。

この評価は12か月、もしくは株価に影響を与える大きな出来事(増資決定、大口案件の獲得・失注などなど)が発生するまで有効とみなされます。なお評価会社は類似の競合企業との比較や、営業キャッシュフローなどからの判断や、資産評価から判断したりします。

なお違反した場合は税制面でのペナルティが課されることになっています。

このように日本との違いとして第三者として評価会社が株価評価を行ってくれるため、企業側が後から国税庁に横槍を入れられるリスクが抑えられています。日本の場合は、ストックオプションに関して、スタートアップ企業等の未上場企業の株価をどう評価してよいのかがアメリカと違いしっかり定義されていなかったのが問題の一つでした。

日本での未上場株式の評価は今後どうなる?

国税庁の方針としては、今のところ純資産価額を使った算出方法で問題ないとルール化するようです。これは、かなりスタートアップ企業側に寄った方針で、純資産を株式数で割った額を時価としてよいほか、さらに優先株を発行しているときは優先株に分配される額を純資産から除いて計算して良いとしており、普通株の価値はかなり低く算出可能になるようです。

当然スタートアップ企業は、初期フェーズゆえに資金繰りが大変なところも多く債務超過となっている企業も存在します。その場合は実質1円での権利行使価格設定も可能となるため、権利保有者はより大きな利益を獲得でき、かつ20%の課税で済むことになりそうです。

まとめ

まだ改正案の段階であり最終的にどういったルールに改正されるか目が離せない状況です。ストックオプションを活用する企業も、給与扱いとならないように税制適格ストックオプションの条件を満たすように変更していくことが予想されます。日本の企業型確定拠出年金制度はアメリカの401kをモデルにしていたり、NISAはイギリスのISA (Individual Saving Account)制度をモデルにしたりしており、今回のストックオプションに関する税制の件も含めて今後も金融ルールで先陣を行く欧米を模倣していくことになりそうです。

それでは、皆さんアリーヴェデルチ!またね! 

黒田太郎
執筆者
黒田太郎
ファイナンシャルプランナー
オーストラリアのLaTrobe大学でコンピューターサイエンスを専攻。卒業後日系メーカーに就職しタイ、シンガポール、台湾に駐在し通算13年の海外生活を経験後、退職しFP(ファイナンシャルプランナー)として活躍中。 一人でも多くの人の役に立つような情報、たまにちょっとニッチな情報と幅広く発信させて頂きます! 保有資格 AFP認定者、ファイナンシャルプランナー2級、証券外務員一種、応用情報技術者
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