ボンジョルノ!皆さんこんにちは!
2023年の3月にスイス金融大手のクレディ・スイスが同国金融大手のUBSに買収される際に、170億ドル相当のAT1債を無価値化し、金融市場に衝撃が走りました。日本国内でも該当のAT1債を保有する投資家がおり、実際に三菱UFJモルガン・スタンレー証券社を相手に集団訴訟も起きています。三菱モルガンに集団訴訟、クレディSのAT1債損失で52億円請求 – Bloomberg
2023年を騒がせたAT1債ですが、そもそもAT1債とは一体なんなのでしょうか?
AT1債とは?(その他AT1 債)
AT1債とはAdditional(その他)Tier1債の略からきています。リーマンショック時に大手銀行が次々と破綻危機に陥った経緯もあり銀行の自己資本比率規制(バーゼル規制)が国際的に決まり、このバーゼル規制に従い銀行の自己資本に参入できる条件を満たす債券としてAT1債が発行されるようになりました。
銀行の自己資本として扱えることから、償還期限なしの永久債として発行され、繰上げ償還(コール)により償還されることが通常です。AT1債はこのように銀行が自己資本に組み入れることができる特殊な債券という位置付けになるので、銀行以外がAT1債の発行体になることはありません。
UBSや三菱UFJがAT1債を発行?
UBSがAT1債発行、クレディS債の無価値化後で初-需要旺盛 – Bloomberg
2023年3月にクレディ・スイスのAT1債が無価値になって以降、はじめてUBSがAT1債を発行するという記事が2023年11月8日にBloombergよりでてきました。このAT1債は、一定の条件が満たされた場合に普通株に転換される仕組みも入っており、Coco債(偶発転換社債)としての側面もあるAT1債のようです。
クレディ・スイスのAT1債は株式転換されるものではなく無価値化してしまった一方で、本来弁済順位としては劣るはずの株式については、クレディ・スイスの株式22.48株あたりUBS株式1株を受け取るという形になり株式の無価値化を免れていました。そのため今回のUBSのAT1債は万が一の場合でも株式転換される条項がついているものと思われます。
MUFGがドル建てAT1債を発行へ-国内銀行で初 – Bloomberg
また2023年10月16日には三菱UFJがAT1債を発行するというニュースがこちらもBloombergから出ていました。このように金融機関は自己資本比率を維持するためにAT1債を定期的に発行する必要があるのです。
AT1債はあるけどAT2債はないの?実はBⅢT2債(バーゼルⅢ適格Tier2証券(新型劣後債)というものがあります!
AT1債があるならAT2債もあるのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。AT2債はないのですがBⅢT2債(バーゼルⅢ適格Tier2証券(新型劣後債))というものが存在します。
BⅢT2債はバーゼル規制に則り銀行の自己資本のうちTier2へ算入できる条件を満たす債券です。先ほどのAT1債は「その他Tier1」へ算入することができます。普通株等はTier1へ算入が可能です。このようにバーゼル規制では銀行の自己資本を分厚くし、何重にもバッファを設けることで銀行破綻のリスクやダメージを軽減しようというものになっています。また万が一銀行が破綻することにあっても最終的に一般の個人預金などが守られるように破綻時の損失吸収的な設計となっているわけです。
CoCo債とは?CoCo債とAT1債の違いのおさらい
CoCo債とは「不測の事態の場合に別のものに転換される債券」という意味合いのContingent Convertible Bondという名称からきています。つまり発行体に不測の事態が起きた場合は額面での償還ではなく、代わりに株式で償還します、というリスクをもつ債券です。
AT1債はあくまでバーゼル規制に則り自己資本に算入できる条件を満たす債券であるので、不測の事態に株式転換されるかどうかは個々のAT1債の条件によります。AT1債への投資の際はよく条件を理解してから投資判断を行うようにしましょう。
銀行が潰れたらどうなるの?銀行債務の弁済順位のイメージ
AT1債やBⅢT2債は銀行のバランスシート上自己資本に算入してよいとこれまで説明させて頂きました。これはリーマンショック時に実際に大手銀行の破綻が現実となる状況になったため市場への影響力を極力抑えるために、G-SIBs(グローバルでシステム上重要な銀行の意味)に課せられるバーゼル規制に基づくものです。
では実際に銀行が潰れることとなった場合はどういう動きになるのでしょうか?上記は弁済順位のイメージとなります。銀行の経営危機となり債務超過となった場合は、一番下から順番に毀損となります。債務超過になっているので経営破綻となれば普通株式、AT1債、BⅢT2債、TLAC債、普通社債という順番で全損もしくは部分毀損が発生します。仕組みとしてはこうして何層も資本を分けることで、金融市場全体への影響を極力軽減しようとしています。一方で投資家としてはその分リスクを背負うことになりますし、当然その見返りに高い利回りが提供されることとなります。
G-SIBsとは?どういった銀行がG-SIBsに指定されているの?
G-SIBs(Global Systemically Important Banksグローバルでシステム上重要な銀行の意味)はFSBにより毎年指定されます。2022年11月21日に公表された銀行は世界で30行あり、日本の銀行では三菱UFJファイナンシャルグループ、みずほファイナンシャルグループ、住友三井ファイナンシャルグループの三行が指定されています。
これらの銀行はG-SIBsとしてバーゼル規制により自己資本比率規制が課せられより自己資本比率を高めることが要求されます。AT1債やBⅢT2債、TLAC債はこのG-SIBsが発行する債券タイプとなります。
AT1債の購入方法。AT1債の利回りや条件は?
AT1債やBⅢT2債(バーゼルⅢ適格Tier2証券(新型劣後債))はそこまで広く個人投資家向けに出回っていませんが、それでも投資は可能です。先日2023年10月30日付で発行された三井住友ファイナンシャルグループの第18回無担保社債(実質破綻時免除特約及び劣後特約付)は円建ての10年満期で税引き前年利1.758%の利回りとなっておりました。
ある程度のリスクを投資家が負う分、相対的に高い利回りが提供されます。AT1債やバーゼルⅢ適格Tier2証券への投資を検討している方は是非IFAに相談してみることをオススメします。債券市場には巷のネット証券のホームページでは出回っていないような様々なタイプの債券が存在します。あなたのニーズに合致した債券を提案してもらえるでしょう。
まとめ
さて今回はAT1債にフォーカスして取り上げさせて頂きました。リーマンショックを教訓としてバーゼル規制が適用されるG-SIBsがAT1債やBⅢT2債、TLAC債を発行しています。G-SIBsが発行する債券だから安全なイメージではありますが、2023年には実際にクレディ・スイスがUBSに吸収合併される際にAT1債が無価値化する事態も発生しており、投資家の方は十分リスク・リターンを認識した上で投資することをオススメします。
また一方でAT1債などへの債券投資家がこうしたリスクを負担することで、銀行破綻時の金融市場への影響を最小化している面もありますので、リーマンショック発生の時代よりも金融市場は強固になってきているともいえるでしょう。
それでは皆さん、アリーヴェデルチ!またね!